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アベノミクスで格差は拡大していない――相対的貧困率・子どもの貧困率から

衆院選公開討論会などで立憲民主党ほか野党は「アベノミクスで格差が拡大した」と何度も強調していた。本当にそうなのか?

「『子どもの貧困率の低下』の背景を探る」という論文が2017年7月28日付で発表されている。貧困率低下である。増加ではない。発表したのは、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究者だ。

www.murc.jp

この論文には次のように書かれている。

子どもの貧困率は、景気変動などの影響を受けて若干の上下を伴いつつも、1980年代からほぼ一貫して上昇傾向にあり、2012年には16.3%に達していたが、2015年には13.9%まで大きく低下した。2012年には6人に1人が貧困状態にあったが、それが2015年には7人に1人にまで改善した。

2015年はアベノミクスが躍動していた時期に当たり、2014年4月の消費増税(5%→8%)による一時的な経済の落ち込みを脱して、経済が大きく成長した時期にあたる。実質GDP成長率は2013年の2.7%に継ぐ1.7%を記録した。それに伴って子どもの貧困率も低下したことが分かる。

同論文にはほかにも興味深い分析がある。

子どもの貧困率が低下したのは(中略)各世帯の貧困率が低下したことが主因だと言える。

子どもの一人当たり可処分所得(等価可処分所得)の分布を2012年と2015年について描いたもの(図表 3)によると、貧困線よりも所得の低い層の割合が低下し、貧困線より所得の高い200~360万円の層が増加していることが分かる。(引用者注:一部言葉を補った)

つまり、同論文によると、「子どもの貧困率低下の要因は、低所得層の賃金の増加が主因」なのである。

ここで「おやっ?」と思わないだろうか。アベノミクスで格差は拡大し、貧困層も増え、実質賃金は下がって手取り所得は目減りした、というのが立憲民主党の主張だったはずだ。しかも枝野代表は、ほとんどの国民はアベノミクスの恩恵なんか受けていないと言う。ところが、ここでは、低所得層の所得が増えて子どもの貧困率が下がった、と結論付けている。子どもの貧困率の低下は「アベノミクスの恩恵」ではないのだろうか?

賃金については、こう述べている。

賃金はどのように変化したのかを見てみよう。図表 5と図表 6は、一般労働者(フルタイム労働者)の1か月の所定内給与と、短時間労働者(パートタイム労働者)の時給の分布の変化をみたものである。両方のグラフから共通して分かることは、2012年から2015年にかけて低所得者の割合が減少し、中所得の割合が増加していることである。

これも立憲民主党の主張とぶつかる。2012年~2015年に限っての話だが、低所得者の割合が減り、中所得者の割合が増えているという。確か同党は「アベノミクスで中間層は底抜けした」と言っていたはずだ。「底抜け」などとんでもない。中間層の割合は増えたのだ。

子どもの貧困率厚生労働省が2018年のデータも公表している。同じ執筆者による論文がないか三菱UFJリサーチ&コンサルティング内を検索してみたが、見当たらなかった。

しかし、実は2018年の調査で子どもの貧困率はさらに低下している。

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子どもの貧困率の年次推移――厚生労働省「2019年国民生活基礎調査の概要」より

厚生労働省「2019年国民生活基礎調査の概要」によると、2018年の子どもの貧困率は13.5%である。グラフの(新)とあるのは、算出方法が変更されたことによるもの。2018年以前は全て旧基準で算出されている。

アベノミクス後期にあたる2018年も、僅かとはいえ子どもの貧困率は低下した。上のグラフを見れば、低下したのは子どもの貧困率だけでなく、相対的貧困率も下がっていることが分かる。

ところが、「アベノミクスで子どもの貧困率相対的貧困率が低下した」という事実を、朝日新聞デジタル(2020年7月17日付)は読者に全く違う印象を与えるような報じ方をしている。

www.asahi.com

「子どもの7人に1人が貧困状態 18年調査で高い水準に」という見出しは、どう考えてもミスリードではないだろうか。

三菱UFJの論文では、国際的な水準ではまだ高いことは認めた上で、「2012年には6人に1人が貧困状態にあったが、それが2015年には7人に1人にまで改善した」と、貧困率の改善傾向を強調していた。一方の朝日新聞は、国際的水準で見て高いことを強調している。

しかし、2期連続で数値が改善しているのだから、ここは「子どもの貧困率低下」を見出しに取るべきだろう。

ところで、記事を読むと、朝日新聞はおもしろいことを書いている。

子どもの貧困率がわずかながら改善した背景には、景気拡大が調査時点の18年まで続き、給与収入を押し上げたことがある。

朝日新聞アベノミクスで景気拡大が2018年まで続いたこと、そして給与収入を押し上げたことを認めているのである。これも立憲民主党の主張と矛盾するではないか。「景気拡大→給与収入の増加→子どもの貧困率相対的貧困率の低下」という経路がここには示されている。立民・枝野代表は、アベノミクスで賃金は目減りし、格差も貧困も拡大したと述べていたはずだ。

事実はどうだったのかと言えば、アベノミクス名目賃金を増やし、それが貧困率を引き下げ、格差を縮小させたのである。

何でも実質賃金で考えればいいというものではない。ここでは、名目賃金の方が生活実態をよく反映していることが分かる。

ついでに、厚労省の「国民生活意識調査」に出ている次のデータも見てみよう。

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2015年~2019年の生活意識の変化――厚労省「2019年国民生活基礎調査の概要」より

アベノミクスの期間中、8%への消費増税を乗り越えた2015年から2019年にかけて、生活が「大変苦しい」と答えた世帯は約6ポイント減少、「やや苦しい」が変化なし、「普通」が約4ポイント上昇、「ややゆとりがある」が1.5ポイント上昇、といった結果になっている。

これを見ても、「(生活が)大変苦しい」と答えた割合はかなり減ったわけだから、格差が拡大したとは言えないだろう。また、枝野代表が言う「中間層の底抜け」に相当するような生活意識の変化は見られない。

補足:相対的貧困率とは?

相対的貧困率」とは、等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得)の貧困線(中央値の半分)に満たない世帯員の割合である。可処分所得とは、所得から所得税、住民税、社会保険料及び固定資産税を差し引いたものをいう。また、保育サービスのような社会保障給付による現物給付が含まれていないことを注意する必要がある。(内閣府「平成22年版 子ども・子育て白書」第1章1節3のコラムより)

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相対的貧困率の説明――内閣府白書より

補足:子どもの貧困率とは?

朝日新聞デジタル(2020年7月17日付)によると、「相対的貧困率」は、世帯の可処分所得(手取り)などをもとに子どもを含めた一人一人の所得を仮に計算し、順番に並べた時、真ん中の人の額の半分(貧困線=18年調査では127万円)に満たない人の割合をいう。「子どもの相対的貧困率」は、貧困線に届かない17歳以下の割合を示したもの。

※「相対的貧困率」「子どもの貧困率」のより詳しい説明は、厚労省「相対的貧困率等に関する調査分析結果について」の「よくあるご質問」参照。