回り灯籠

憲法9条を改正して「一国平和主義」から脱却を!

「実は格差は拡大していない」。秀逸だった永濱利廣氏の解説(BSテレ東出演)

アベノミクスで格差は拡大した」「アベノミクスは失敗した」と力説する立憲民主党・枝野代表。しかし、その主張は、はっきり言ってポピュリズムそのものである。

枝野代表のこの主張を私なりに分析したところ、以下の4点が明らかになった(昨日のブログ参照)。

mawaridourou21.hatenablog.com

  1. 経済指標が伝える事実に反する
  2. コロナ禍で時短や休業を余儀なくされ、経済的に困窮する人々、貧困に苦しむ人々をターゲットに、その「感情」に訴えたメッセージである
  3. コロナ禍によって生じた日本経済と社会の傷を、全て「アベノミクス」のせいにする「すり替えの論理」である
  4. 日本の経済と社会の現状は「アベノミクスの9年間」がもたらしたのであるから、この9年間を担った自公政権を退場させない限り、経済も社会も良くならないとして、人々を政権打倒に駆り立てる政治的メッセージである

日本共産党と「限定的な閣外協力」を行うという禁じ手まで使い、多くの小選挙区で候補者を一本化させた手腕は大したもので、枝野代表の衆院選にかける熱量は凄い。

しかし、禁じ手は禁じ手である。それは日本の国益を真面目に考える政治家なら、絶対にやってはいけないことである。共産党の今回の衆院選の公約には「日米安全保障条約の破棄」が入っており、綱領では将来的な天皇制の廃止をほのめかしている。そんな政党が政権の一角に食い込んだら、その先何が起こるか分かったものではない。

今度の選挙で政権交代が起きることは100パーセントないが、立民が今後も共産党と組み続けるなら、いつか政権を取ることもあるだろう。しかし、その時一番困るのは立憲民主党ではないだろうか。立民が政権を取った瞬間から、共産党獅子身中の虫となる可能性が高い。

それはともかく、今の若い人たち共産党の恐ろしさを知らない。逆に高齢者は反体制意識が強いから、自公政権を倒せるなら禁じ手もやむを得ないと考えているのだろう(立民の支持者には高齢者層が多い)。

枝野代表が「アベノミクスで格差は拡大した」「アベノミクスは失敗した」と言い出したとき、「何を言っているんだろう、この人は」と思ったものだ。しかし、報道番組や新聞でこれに反論する意見やコメント、主張はあまり見かけなかった。

その後、いろいろ調べているうちに、アベノミクスを批判した枝野氏への反論も結構出ていることが分かったが、私の場合、10月15日に放送されたBSテレ東の「日経モーニングプラスFT」に出演した、エコノミストの永濱利廣(番組では「永浜利広」)氏の解説が非常に参考になった。

txbiz.tv-tokyo.co.jp

これを見たおかげで、だんだん自分の考えが整理されていったように思う。そこで、記憶が薄れないように、番組の該当箇所を文字起こししてみた。

           ◇             ◇

八木ひとみ(キャスター) 特集です。お伝えしていますように昨日、岸田総理が衆議院を解散しました。そこで今日の特集は「衆院解散 マクロ政策論争の焦点」というテーマで今後の政策論争についてマクロ経済政策の視点から議論していきます。ゲストをご紹介します。第一生命経済研究所首席エコノミストの永浜利広さん(経済統計 マクロ経済の実証分析が専門)です。宜しくお願いします。

永浜利広 宜しくお願いします。

豊嶋広(BSテレ東解説委員) 今回の衆議院選にあたって各党の政策公約に大盤振る舞いとも見える分配政策が並んでいると。特集でエコノミストをお招きするにあたりまして、今回はあえて財政出動積極派の立場から各党のメニュー、どこが足りないのか、こういった点で論評していただきたいと思いまして、永浜さんをお招きしました。

 それで最初にまず永浜さんに伺いたいのは、今何といっても話題になっているのは、財務省の矢野(康治)次官の月刊文藝春秋への寄稿(11月号「財務次官、モノ申す」)、「このままでは国家財政は破綻する」という論文ですね。これは与野党の財政政策をバラマキだと批判している、しかもこの選挙の直前にということで大いに話題になっているわけですけれども、永浜さんはこの矢野次官の財政出動に対する主張についてはどう見ていますか?

永浜 一言でいうと、ひと昔前の考え方かなという感じがします。政府の一般会計だけで考えるとこういう考え方もできるんですけれども、リーマンショック(2008年)以降の世界のマクロ政策というのは、金融政策と財政政策を連携するようになっているんですね。そうなると政府債務の規模はあまり関係なくて、インフレ率が予算制約になりますから、そういった意味では今のアメリカみたいに、インフレ率が上がっている時には財政はあまり出せないと思うんですけど、日本みたいにまだインフレ率が低い国は、まだ出す余地はあると思います。

豊嶋 なるほど。もっとも、財政出動の裏で国民の借金は増えていくという話になりますので、財政規律は一定程度必要であるというふうに考える人は多いんではないかと思います。

 そういうことで、矢野次官の論文の中でいくつか論点はあるんですけど、ここでは2つに絞って話を深めていきたいと思います。

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「文藝春秋」11月号掲載の論文にみる矢野財務事務次官の主な主張――日経モーニングプラスFT10月15日より

1つは、家計・企業にいま空前の金余りがあり、給付金を出しても死蔵されるだけではないかと。このように矢野さんは論じているわけですが、この指摘どういうふうに受け止めますか?

永浜 はい。実はこれ、グローバルなマクロ経済の視点でいうと、逆に金余りだからこそ日本のいわゆる中立金利(インフレを加速も減速もさせない実質金利)が大幅マイナスになってしまって、こういう時は金融政策だけでは難しいから財政を出さなきゃいけない、ということになるんですね。ただ、個人的には、だからといって給付金はですね、ちょっと今回の局面では、私はあまり筋が良くないんじゃないかと思います。

豊嶋 それは後ほどまた詳しくしましょう。

八木 では2つ目のポイントである消費税の引き下げに関してですね、社会保障の財源不足につながると指摘していますが、これに関してはいかがですか。

永浜 これは引き下げの度合いだと思うんですけど、アベノミクスで消費税が5%から10%に上がったんですけど、それでトータルで年間13兆円の財源が確保されているんです。ただ、そのうち社会保障に紐付いているのが8兆円ぐらいなので、そういった意味では、逆にいえば5兆円分ぐらいの消費税の引き下げであれば余地はあるんですけど、それ以上、下げてしまうと財源不足になってしまうんじゃないかな、というところはありますね。

八木 では、ここからは衆院選に向けて各党の政策を見ていきます。事実上の選挙戦に突入ということで、各党、ポスターやホームページなどで政策をご覧の通りアピールしています。こちらは各党の政策から抜粋したもの。

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衆院選の各党の公約一覧 コロナ対策――日経モーニングプラスFT10月15日より

まずはコロナ対策から見ていきます。経済活動活性化へ永浜さんはこのコロナ対策、何に注力すべきというふうに考えていますか?

永浜 結局、これって、日本が、経済が戻るためには、人々がコロナに対する恐怖心がなくならなきゃいけないということになると、新型インフルエンザみたいに普通に街のお医者さんに行って、コロナの検査をして、陽性だったら飲み薬を処方されて1週間ぐらいで社会復帰できるみたいな、そういう環境を一刻も早く作るということが最も重要だと思いますね。

豊嶋 コロナとの戦いも1年半を超えてきたなかで、最初から言われていてまだきちんと実現されていないのが病床、あるいは医療人材の確保、こういったことかと思うんですが、これをどうやって担保していくのかという意味で、強制力を持たせる法整備、これが議論になっています。実際に先ほどの表の中でも、自民党ですとか維新の中ではこういうのが入っているわけですが、この強制力の担保、法整備どう見ますか?

永浜 たとえばヨーロッパみたいに病院の7~8割が公営ということであれば必要ないと思うんですけども、日本の場合はその逆で8割以上が民営の病院なわけです(民間病院の割合は81.5%。厚労省令和2年3月末資料より)。となると、こういった有事の時というのは、やっぱり病床が不足する可能性がありますから、そうなると私は、ある程度、法的な強制、これは必要になってくるんじゃないかなと思います。

八木 続いて各党の分配に関する政策について見ていきます。こちらも一覧でまとめました。

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衆院選の各党の公約 分配政策――日経モーニングプラスFT10月15日より

分配重視という面で比べますと、給付と減税を各党打ち出しています。まず給付金に関して伺っていきますが、給付金支援、先ほどお話ありましたよね、消費に回るかどうかというお話でしたけれども、いかがですか?

永浜 そもそも給付金ってマクロ経済学的にいうと、前回の給付金は何のためにやったかというと、需要を喚起するためじゃなくて、要は経済を止めても人々が生活できるような、いわゆる生活保障の政策だったわけですね。ただ、これからというのは、むしろ需要を喚起するわけですから、という意味では、私は今回は給付金というよりも、むしろ使った人が得をするような、そういう政策の方が筋がいいんじゃないかなと思います。

豊嶋 使った人が得をするというと、たとえばどんなものが考えられますか?

永浜 一番シンプルなものでいうと、期限付き消費減税とかもあると思うんですけど、たとえばGO TO キャンペーンみたいなものも、これも使った人が得をするという意味ではいいんじゃないかなと。あとはマイナポイントみたいな、そういったところもあると思います。

豊嶋 次に自民党が掲げている政策ですけれども、賃上げ減税といってもいいですね、賃上げに積極的な企業については税制で支援をしていくということ、これは岸田さんが総裁選の時から言っていたし、公約にも盛り込まれてきたということなんですが、この賃上げを進めるという意味で減税の効果ってありますか?

永浜 これは非常に不確実性が高いと思うんですね。というのも、これまでも実は賃上げした企業に減税というのは、全くやってこなかったわけじゃないんです。まあ、でも賃金はなかなか上がらないと。じゃあ賃金って、海外でなんで上がっているんですかというと、実はこれ海外、国際比較なんですけど、要は、ひと言でいうと失業率が高い国の方が賃金が上がりやすいということなんですね。

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主要国の失業率と賃金上昇率――日経モーニングプラスFT10月15日より

豊嶋 ちょっと日本の立ち位置を見てみましょうか。

永浜 横軸が失業率で縦軸が賃金上昇率です。見ると日本が一番左下にありますよね。日本というのは失業率が低いんだけども賃金が上がりにくい。それはなぜかというと、失業率が高い国というのは労働市場が流動化していて、逆にいうと日本の場合、なんで失業率が低いかというと、やっぱり正社員が解雇されにくいと。解雇規制が厳しいということがありますから、そういった意味では、私は本当に日本が賃金を上げたいのであれば、私は解雇規制の緩和、ここまで踏み込まなきゃいけないんじゃないかなと思います。

豊嶋 ただ、まだコロナの不安というか懸念が残るなかでは、「解雇規制」という言葉は政治の舞台に乗りにくいと思いますけど、どうですか?

永浜 コロナが過ぎ去っても、なかなか乗りにくいと思うんですけど、私はそこは解雇規制緩和と、たとえば人材育成、職業訓練のセットとかで打ち出す必要があるんじゃないかなと思います。

八木 特に賃金の格差が広がったというふうに言われていますから、そのあたりがやっぱり問題になってくるのではないかな、と思うんですが、そのあたりいかがですか?

永浜 実は、賃金の格差だけで見ると、そんなに広がっていないということが言えまして、これ、どういうことかというとですね、ひと言でいうと、格差が広がっているんじゃなくて、みんな貧しくなっているということです。

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年収別世帯の割合――日経モーニングプラスFT10月15日より

こちらが年収別世帯の割合(の棒グラフ)で、一番年収の低い200万円未満の世帯の割合が青いグラフ、オレンジの方が逆に年収が一番高い1500万円以上の世帯の割合。これを見ていただくと、確かに200万円未満の世帯も2000年代以後から上がってきているんですけど、一方で1500万円以上の世帯も下がってきてしまっているんで、ということからすると、これって格差が広がっているんじゃなくて、みんなが貧しくなっているんです。そういった意味では、少なくとも家計の間の格差は広がってなくて、私はやっぱり企業から家計への分配が少ない、ここが問題じゃないかなと。

八木 全体の落ち込みを底上げするような政策が必要ということですね。

豊嶋 先ほどちょっと触れられていましたけど、時限的な消費減税の方が効くんではないかという話があったと。分配政策は各党見ると、主に野党ですね、立憲民主党は消費税を5%に時限的に引き下げることを言っている。これについていかがですか?

永浜 確かに経済効果的には効くと思います。実際に内閣府のマクロ経済モデルでどんな政策が効果が出るかという計算があるんですけども。

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日本経済の財政乗数――日経モーニングプラスFT10月15日より

特に見ていただきたいのが、消費減税のところを見ていただくと、これ「乗数」ってどういうことかというと、たとえば0.54というのは、1兆円消費減税にお金を使ったらGDPが0.54、5400億円増えるというデータなんですね。なので、使ったうちの半分以上は、消費減税ではGDPに乗りますと。ただ、左から2つ目の所得減税、これ給付金も一緒なんですけど、これだとたとえば1兆円給付金で配ってもGDPの押し上げには2200億円しか効かないということなので、そういった意味では消費減税の方が需要喚起の効果はあるんです。ただ、たぶん日本の場合、消費減税はそれ以上に政治的なコストが大きいので、実現可能性といった意味では、なかなか難しいのかという気もします。

八木 この後は限られた財政の賢い使い道について考えます。財政政策で「ワイズ・スペンディング」(用途を絞った効果的な支出)という言葉が広く使われるようになりました。これは用途を絞って効果的に使うということなんですけれども、用途を絞るというのは難しいと思うんですが、どこに注力すべきだと考えていますか?

永浜 やっぱり将来儲けが、生産性が上がるような、そういった分野がいいと思うので、そうなるとさっきもちょっと触れたんですけども、私は解雇規制を緩和する一方で人材に投資をしたりとか、リカレント教育(社会人の学び直し)、こういったところに投資が必要で、実はOECDなどのデータを見ても、日本はこういった積極的な労働市場政策に使うお金って、世界で最低レベルなんですね。だからここをまずやらなきゃいけない。

あともう1つは、世界の産業政策というのが、潮流が変わってきていて、今までの産業政策はどっちかというと、できるだけ規制を緩和して民間に自由にやらせる環境を作るということだったんですけど、最近は環境の問題であったりとか、経済安全保障、戦略物資、この辺の問題が出てきて、それは民間に任せたら進まないので、むしろ海外では、欧米や中国なんかでは、そういった分野に長期的に大規模な財政政策を打ち出し始めているんですね。なので日本でも、ちょっとずつ出てきてますけどね、こういったところをもっと海外並みにやっていくということが非常に重要かなと思います。

豊嶋 ちょうど先日、TSMCが決算発表に合わせて熊本への工場進出を表明したということですが、これに対して国が予算を付けていくのも、1つの焦点になりそうですね。(引用者注:日経ウェブ10月8日参考)

www.nikkei.com

永浜 望ましい方向性だと思いますね。

豊嶋 冒頭ご紹介した矢野財務事務次官の論文でもポイントの1つになってましたけれども、財政出動を広げていく場合、それはいいとしても財源をどうするんだという問題、たとえば東日本大震災復興事業を進めるに当たって別途増税のプランを作っていたわけですね。今回はないと。この辺どう考えますか?

永浜 私は経済がちゃんと戻れば増税はしてもいいと思うんですけど、ただアベノミクスを振り返っても、政策自体は良かったんだけども、やっぱり拙速な消費増税をしてしまったことによって経済の正常化まではいかなかったというところからすると、やはりまずは経済成長、これが正常化するまではできるだけ増税は控えて、経済が正常化してから再分配のための増税をしていくと。この順番が私は大事なんじゃないかなと思いますね。

豊嶋 当面、目先の衆議院選挙がある、あと来年は参議院選挙もあります。やはりそれを越えてからという感じになりそうですかね。

永浜 ただ、私が懸念しているのは、来年の参議院選挙を越えればしばらく選挙がなくなるわけですね。そこで経済が良くなっていれば私は増税してもいいと思うんですけど、そこで経済が良くなっていない状況で増税してしまうというリスクを私はちょっと懸念しています。

豊嶋 国の債務についていろいろ伺ったんですが、次に民間の債務を伺っていきたいと思うんですけれども、こちらは先般公表されました経済財政白書に載っているグラフなんですね。

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民間非金融企業の企業債務――日経モーニングプラスFT10月15日より

 

コロナで経済活動が抑えられたと、結果として民間の債務、これは非金融部門ですけども、トレンドラインよりも27兆円も積み上がってしまっていると。これゼロゼロ融資(引用者注:実質、無利子無担保での融資)といった形でかなり国を中心にお金を付けたんだけれども、結果、借金は溜まっていると。これを全部返せるのかどうかというのが1つ議論になりそうなんですが、これについてどういうふうに考えますか?

永浜 そうですね。これは政府債務と違っていつか返さなければいけないというものなので、全然考え方は違うと思うんですけど、ただこれもマクロ経済政策を安定化させて経済が良くなってくれば、ある程度資金繰りがうまくいく企業も出てきますから、まずは経済を良くするところが重要だと思います。ただ、それでも難しいところについては、ある程度公的な部分も介入する形で、M&Aとかそういう形で厳しい企業を、健全な企業が吸収していったりとか、そういったところを支援するという政策も必要になってくるんじゃないかなと思います。

八木 ここまでいろいろと見てきましたけれども、今回の政策論争に関して、マーケットの視点からいうと何を評価していくんでしょうか。

永浜 実はあまり評価されてなくてですね。岸田さんの所信表明でもそうだったんですけど、特に外国人投資家って改革が好きなんですけど、改革という言葉が1つも入ってこなかった。さらに岸田さんの政策も、引っ込めましたけれども金融所得課税の見直しとか、あとは企業の四半期決算の見直しとかも言っているので、そういった意味では残念ながら今回、ある意味、岸田さんがアンチ・ビジネス的な野党に政策がちょっと抱きついていくような形で、あまりこう、比較がしにくくなったというか、近寄ってきているということからすると、マーケット的にはあまり、方向性としては評価は難しいんじゃないかなと思います。

八木 ここまで衆院選に向けた政策論争のポイントについて、第一生命経済研究所首席エコノミストの永浜利広さんとお伝えしました。