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「蔡英文斬首作戦」も起こり得る台湾有事。元陸上幕僚長・岩田清文氏の「Foresight」セミナーを受講

秋晴れの3日、文化の日。夕方から夜にかけて新潮講座「オモテに出ない“国際政治経済の深層”を知る『Foresight』セミナー」を受講した。講師は元陸上幕僚長・岩田清文氏。タイトルは「元陸自トップが語る『台湾有事』の可能性と日本の課題」。

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11月3日開催の新潮講座「Foresight」セミナー

今後6年以内に、中国の台湾進攻があり得る――。米軍の高官が議会でそう証言したのは、今年3月のこと。“台湾有事”は本当に起こるのか、また、それに対し日本はいかなる備えをすべきか。元陸上幕僚長が解説します。

という案内文に引かれての参加である。

台湾有事については、岩田氏による『中国、日本侵攻のリアル』(飛鳥新社)という著書もあり、今年は『自衛隊最高幹部が語る令和の国防』(新潮新書)という共著も出されているから、本当はそれを読めばよいのだが、時間がなく、読んでもどこまで理解できるかという不安があった。たまたまセミナーの広告を目にしたので参加することにした。

コロナ前は、何度か防衛省主催の講演会やセミナーに参加したことがある。そのたびに感じたのは、貴重な話を聞いても知識がなかなか定着しないことである。大抵パワーポイントを使って話が進められるが、その説明資料は手元に残らない。そのせいか時間が経つにつれて忘れてしまうのである。

ただ、今回講師を務めた岩田清文氏は、上記のような本も書いておられるし、寄稿も多いようだ。講演を聴いてから、後でそれらを読めば理解も深まるだろうと考えた。

台湾有事の可能性は極めて高い、というのが岩田氏の基本認識だ。習近平主席は今年7月1日、中国共産党創立100年記念の大会で「台湾問題を解決し、祖国の完全な統一を実現することは、中国共産党の歴史的な責務だ」と発言した。

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ここまで言い切ったからには習近平は必ずやるだろうし、必ずやると見て我々はその日に備えなければならない。「歴史的な責務」という言葉はそれくらい重いという。

中国がベストな作戦として考えているのは、アメリカや日本に介入の余地を与えないほどの短期決戦で決着を付けること。お手本はロシアのクリミア侵攻である。

ロシアは2014年のソチ五輪の直後、国際社会が油断している隙をついてクリミアを奪取した。フェイクニュースを流したり(8割は真実だがウソ情報を2割だけ入れる)、密かに軍人を送り込んだりしてクリミアを内部から攪乱し、最後は住民投票に持ち込んで、クリミア住民が自ら進んでロシア編入を選ぶという形をとった。

中国も奇襲的に「蔡英文斬首作戦」をやるだろうという。特殊部隊を送り込んで総統府を占拠し、台湾トップを排除してしまう。あとは台湾内部にも親中派は多いから、彼らに工作したり、フェイクニュースを流すなどして、人心を掌握し、中国への統一を宣言するというやり方だ。

実際、台湾は中国による「斬首作戦」を想定し、それを阻止するための軍事演習も行っている。

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産経ニュース(2020年7月16日)の記事には、

総統府のある台北市では15日夜、総統と副総統ら政権中枢の拉致・殺害を目的とする中国軍の「斬首作戦」を阻止する演習が、軍民共用の松山空港を舞台に特殊部隊を投入して行われた。

という記述が見える。

この短期決戦方式が難しい場合、大規模軍事作戦で台湾に侵攻するかもしれない。その時、最大の障害となるのはもちろん米軍だ。しかし、中国は米軍を台湾海峡に接近させないため、過去20年以上、異常なハイペースで軍拡を続けてきた。すでに人民解放軍の高性能ミサイルや爆撃機(ミサイル搭載)は、米軍基地のあるグアムを射程に収めており、米軍はその脅威への対応から一部の兵器をグアムから引き上げているそうだ。

また、このところ中国の核搭載可能な極超音速ミサイルが話題になっているが、これは現在のミサイル防衛網では迎撃不可能だという。

mainichi.jp

これが実戦配備されたら、イージス艦による迎撃ができず、米空母はとても台湾海峡に近づけない。米軍が来援できなければ台湾に勝ち目はない。

この状況で米軍がどうやって台湾を助けるかが大きな課題となるが、いずれにしろ、その時は自衛隊は米軍を支援しなければならない。日米安保条約は「極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため」米国は日本に基地を置くと定めており(第6条)、当然、国内の米軍基地から米軍が台湾に向かう。

日本は「重要影響事態」「存立危機事態」などの事態認定をもって自衛隊を出動させ、米軍の後方支援にあたったり、台湾在留邦人の救出活動を行う。我が国への直接的な武力攻撃がなくても、存立危機事態と判断されれば、自衛隊武力行使(限定的な集団的自衛権の行使)を行うこともあり得る。

万が一、台湾が中国の手に落ち、台湾に中国の軍事基地ができたら、東シナ海の制空権は完全に中国に握られ、これを取り返すことは不可能。次に狙われるのは沖縄の南西諸島で、台湾有事と同時だったかその後だったか、ちょっと記憶がはっきりしないが、台湾に近い南西諸島の島々が狙われるのは間違いないという。

岩田氏が語っていたことで驚いたのは、中国は台湾有事の際、日本を牽制するため中国在留日本人を人質に取るだろう、という話だ。考えてみれば、さもありなんと思う。

人質を取って交渉のカードに使うのは中国の常套手段で、民主党政権時代(2010年9月)に尖閣諸島で領海侵犯し、海保の巡視船に体当たりした中国漁船を拿捕した折、中国は在留日本人を拘束し、「解放してほしければ、船長を釈放しろ」と日本政府に迫った。これで腰砕けになった当時の菅直人政権は、あっさりと船長を解放した。形の上では那覇地検の判断ということになっているが、実際は菅直人総理の指示だったという前原誠司国交相(当時)の証言がある。

www.sankei.com

www.news24.jp

中国は必ず同じことをやるので、台湾有事の際、中国大陸からの日本人の引き上げをどうやってやるかが課題だという。

もう一つ驚いたのは、中国は台湾有事と尖閣奪取を同時に行うのではないか、という予測だ。尖閣奪取は海上民兵が主体となって行い、自衛隊尖閣諸島に引きつける。つまり陽動作戦である。

この時、日本政府は尖閣防衛を優先するか、台湾有事への対処を優先するかで究極の選択を迫られるというのが岩田氏の見方である。日本としては、台湾有事への対処(台湾救援)を優先するのが正しく、一時的に尖閣諸島が中国に奪われることになってもやむを得ないと言っていた。

この判断について、岩田氏は「悔しいが」「非常に残念だが」「苦渋の決断」と何度も繰り返していたのが印象的だった。