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宮家邦彦氏は「誤報に近い」と批判したが、米軍司令官が「6年以内に台湾侵攻の可能性」を指摘したのは事実だった

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦氏が、「中国の台湾武力統一はあるか」と題する産経新聞のコラム(10月21日付)でこんなことを書いていた。

では中国による台湾侵攻は時間の問題なのか。某有力紙は「デービッドソン米インド太平洋軍司令官(当時)は今年3月、中国が『6年以内』に台湾を侵攻する可能性があると指摘」と報じたが、これも誤報に近い。米上院軍事委員会公聴会で同司令官は、台湾に対する「脅威が今後6年で顕在化する」としか述べていない。

11月5日放送のNHK国際報道2021で油井キャスターがインタビューしたのは、このデービッドソン米インド太平洋軍司令官(当時)、現海軍退役大将である。

宮家氏は「誤報に近い」と言うのだが、「6年以内に台湾を侵攻する可能性がある」という某有力紙の記述と、デービッドソン氏の「脅威が今後6年で顕在化する」という発言との間に、誤報を疑わなければいけないほど大きな違いがあるのだろうか、というのが私の疑問だ。

台湾から見て中国軍の脅威が顕在化するとは、「台湾侵攻が現実味を増す」とか「台湾侵攻が目前に迫る」とか、そういうふうにしか解釈できないはずだ。デービッドソン氏は脅威が「顕在化する」と述べたという。その意味するところを分かりやすく言い換えれば、「台湾を侵攻する可能性が高い」となるのは理の当然であるように思われる。

仮にそれが某有力紙の言い過ぎだとしても、かなりそれに近いことを言っているのは明らかで、「誤報」という表現まで持ち出して批判するのは大げさすぎる。それとも宮家氏は、デービッドソン氏は「今後6年で」と言ったのに、「6年以内」と時期を早めて報じたのが気に入らなかったのだろうか。

しかし今回、NHKが米上院軍事委員会公聴会で証言した当の本人にインタビューしたところからも、発言の真意が某有力紙の報じた通りだったことが分かる。

www.nhk.jp

リンクした記事「米軍前司令官に聞く“中国軍6年以内に台湾侵攻のおそれ”」にはこう書かれている。

「2027年」。

これは、中国人民解放軍の創設100年にあたる年です。

また習近平国家主席がもし来年秋の共産党大会で続投を決めれば、3期目の任期を終える節目の年となります。

この年に向けて中国が台湾に侵攻する恐れがあると警告を発し注目されたのが、インド太平洋軍のトップだったフィリップ・デービッドソン氏(海軍退役大将・現在は米国笹川平和財団諮問委員)です。

警告の背景を聞きました。(国際報道キャスター 油井秀樹)

               ◇

◆台湾危機までのカウントダウン「デービッドソン・ウインドー」とは

デービッドソン氏が警告を発したのは、ことし3月、米議会の公聴会でした。

2027年までの期間は、今や関係者の間で「デービッドソン・ウインドー」と呼ばれ、中国政府が台湾への侵攻を決めるまでの残り期間の意味で使われ始めています。

そのことを本人に聞くと、苦笑しながら次のように語り始めました。

デービッドソン前司令官:中国軍は我々の情報機関の予測を上回る速いスピードで兵器システムを開発してきました。さらに2027年は習近平国家主席が3期目の任期を終え4期目を迎える時、その政治的なダイナミズムを考慮すれば、2027年までの期間は非常に注目すべきなのです。中国の脅威が明白になるのは6年以内だと思います。いつ習主席や中国軍が決断するのか正確な時期を予測するのは困難ですが、6年後というよりも6年以内だと考えています。

ここで油井キャスターは、2027年までの期間が「デービッドソン・ウインドー」と呼ばれていること、この期間は「中国政府が台湾への侵攻を決めるまでの残り期間」という意味で使われ始めていること、という2点を指摘している。

しかしインタビューでデービッドソン氏は「中国の脅威が明白になるのは6年以内だと思います。いつ習主席や中国軍が決断するのか正確な時期を予測するのは困難ですが、6年後というよりも6年以内だと考えています」と明言した。

同氏は「デービッドソン・ウインドー」の見立てである2027年の台湾侵攻をやんわりと否定し、「6年後というよりも6年以内」だとして、中国による台湾侵攻は2027年より早まる可能性が高いと述べたのである。

某有力紙が「中国が『6年以内』に台湾を侵攻する可能性がある」と書いたのは、完全に正しかったわけだ。

宮家氏は産経のコラムで「中国と台湾をめぐる国際情勢を理解するには、先入観や誤報に惑わされず、中台の内政・外交、諸外国の動きを分析すべきだ。例えば、こんな具合である」と書いていたが、先入観に惑わされ、誤報でないものを誤報(に近い)と決めつけ、分析を誤ったのは宮家氏の方だった。

ちなみに、宮家氏の言う「某有力紙」とは、どこだろう? そもそも引用まで行っておきながら、なぜ紙名を出さないのか非常に不思議だ。不自然ですらある。

似たようなことは各紙が報じているが、宮家氏が引用した表現とぴったり同じという記事は見つからなかった。

宮家氏が言及したのは、朝日新聞のGLOBE+(ウェブ)かもしれない。3月27日付で「『中国は6年以内に台湾侵攻の可能性』米軍司令官証言の現実味」という長文の記事が出ている。但し、この記事が朝日新聞本紙にも載ったかどうかは、(購読していないので)確認できなかった。

globe.asahi.com

「脅威が今後6年で顕在化する」という宮家氏の翻訳に、割合近い表現を使っているのが毎日新聞だ。同紙は3月11日付で次のように報じている。

◆中国:台湾侵攻「今後6年で」 米司令官、中国に危機感

 米インド太平洋軍のデービッドソン司令官は9日、上院軍事委員会の公聴会で証言し、急速に軍事力を増強する中国が今後6年で台湾に侵攻する恐れがあるとの認識を示した。中国が「国際秩序における米国の指導的役割を取って代わろうとしている」と危機感をあらわにし、日本など同盟国との連携を深めて対抗する姿勢を示した。

 デービッドソン氏は、中国を「21世紀の安全保障に対する最大の長期にわたる戦略的脅威」と説明した。中国の軍拡で「インド太平洋地域の軍事バランスは、米国と同盟国にとってより好ましくない状況になっている」と指摘。米軍が効果的な対応を行う前に「中国が軍事的不均衡でつけあがり、一方的に現状を変更しようとする危機が高まっている」と主張した。

 そのうえで、米軍の抑止力の強さと、それを行使する意思を示し「軍事力による目的達成は代償が高すぎると中国に分からせる必要がある」と強調した。台湾侵攻は「中国の明確な野心の一つ」とし、「脅威は今後10年間で、実際には6年で明白になる」と述べた。【ワシントン鈴木一生】

毎日新聞は、デービッドソン氏が「脅威は今後10年間で、実際には6年で明白になる」と述べたとしつつも、「中国が今後6年で台湾に侵攻する恐れがあるとの認識を示した」と書いている。

「(同氏は)『脅威が今後6年で顕在化する』としか述べていない」として、「台湾侵攻の可能性」に言及するのは「誤報に近い」と批判した宮家氏の解釈とは、だいぶ距離がある。