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「こども庁」から「こども家庭庁」への名称変更は評価できる

先の自民党総裁選の頃から「子ども庁」「こども庁」などと称する新しい庁を立ち上げるという報道をよく見聞きするようになった。

増加する児童虐待に効果的に対応するのが目的かとも思ったが、具体的に何をするのかよく分からなかった。今でもよく分からない。

強大な権限を持つ「こども家庭庁」は一体何をやるのか?

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新組織名「こども家庭庁」に 文科省からいじめ対策移管

 政府は子供関連政策の司令塔として令和5年度の設置を目指す組織の名称を「こども家庭庁」とする方針を固めた。政府関係者が14日、明らかにした。子供だけではなく、子育ての基盤となる家庭も支援する姿勢を示す。幼保の実質的な一元化のため幼稚園の教育内容に関与できる仕組みを導入するほか、文部科学省からいじめ対策の権限も移管する。

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 司令塔組織設置に向けた基本方針の修正案を15日に開かれる自民党の会合で諮り、公明党にも示した上で、野田聖子こども政策担当相が最終案を取りまとめる。年内に閣議決定する。

 岸田文雄政権は、児童虐待や貧困問題をはじめ子供に関する政策を一元管理する司令塔組織設置に向けた議論を進めてきた。組織の名称は「こども庁」が想定されていたが、自民党内では子育てだけでなく、妊娠前後から成人まで一貫して家庭を支えるという理念から、こども家庭庁が望ましいとの意見が上がっていた。公明党も先の衆院選の公約で「子ども家庭庁」の設置を掲げており、両党の意見を踏まえた。

 こども家庭庁では、幼保の実質的な一元化に向けた取り組みも進める。政府は保育所の所管を厚生労働省からこども家庭庁に移管するが、幼稚園に関しては文部科学省に残す方針だった。しかし、自民党内から文科省の権限移管を進めるべきだとの意見が根強く、こども家庭庁が幼稚園の教育内容に関与できる仕組みを取り入れることにした。

 幼稚園教育要領と保育所保育指針の策定に当たっては、こども家庭庁と文科省が相互に協議して策定し、首相と文科相が共同で告示する。

 また、こども家庭庁が積極的にいじめ防止対策に取り組むため、文科省から権限を移管。来年の通常国会に提出するこども家庭庁設置法案に明記する。

 子供関連政策を一元的に担うこども家庭庁は内閣府の外局として設置し、首相の直属機関とする。政府はこども家庭庁の設置時期を「5年度の早い時期」と想定。他省庁に子供政策の改善を求める「勧告権」を持つ担当閣僚も配置する。(産経ニュース12月14日)

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産経ニュース21/12/14

「こども家庭庁」は内閣府の外局として設置するという。しかし、内閣府はただでさえ組織が肥大化しており、縦割り行政の打破という名目で強大な権限を掌握しつつある。今は縦割りの打破といえば、それだけで多くの支持が得られる時代だけれども、これは決していいことばかりではない。

というのは、内閣府内閣府に作られる組織が司令塔となって省庁横断的に施策を行う場合、その施策が本当によい施策であればよいのだが、おかしな施策だと、それにストップをかけたり、軌道修正したりすることが難しくなるからだ。

各省庁には大臣がいるわけだが、司令塔である内閣府やその外局から指示が来れば、おかしいと思っても反対しにくくなる。これは怖いことで、こども家庭庁は各省庁への「勧告権」も持つというから権限は絶大だ。

縦割りなら、他省庁が実験的に新しいことを始めても、それがうまくいくかどうか見極めてから動くことができる。しかし、省庁の上に司令塔ができ、そこが強い権限を持つと、「四の五の言わずに従え」ということになるかもしれない。一元化行政の落とし穴というべきか。

文部科学省が幼稚園行政の一部を移管。時期尚早では?

報道によると、文部科学省が所管してきた幼稚園行政の一部を新設の「こども家庭庁」に移管し、いじめ防止対策の権限も同庁に移すという。これは時期尚早ではないだろうか。文科省はもっと抵抗してもよかったと思う。

権限を移行するのは、こども家庭庁がどんな施策を行い、どんな効果を上げるのか、その点を見極めてからでもよかった。こども家庭庁といっても、まだ海の物とも山の物ともつかないからだ。

「こども庁」から「こども家庭庁」に改めた点は評価できる

ただ、組織の名称を「こども庁」から「こども家庭庁」に改めた点は評価したい。産経新聞の記事には、「自民党内では、子育てだけでなく、妊娠前後から成人まで一貫して家庭を支えるという理念から、こども家庭庁が望ましいとの意見が上がっていた」とある。

「家庭を支える」という理念はとても大事で、子供(児童)の健全育成には欠かすことができない。今になって自民党内からこういう声が出たということは、もしかするとそれまでの「こども庁」構想には「家庭を支える」という発想がなかったのかもしれない。

社会の基礎的な単位は家庭あるいは家族である。決して個人ではないし、まして子供であるはずがない。子供は父親と母親のいる家庭(もちろん祖父母とのつながりも大事だ)に生まれ、両親の愛情をふんだんに受けて育ち、家庭教育、学校教育に加え、地域や社会からの支援を受けて成長していく。これが基本だ。子供と親を切り離すことはできない。

不幸にして親から虐待を受けた子供は、一時的に家庭から引き離すことも場合によっては必要だが、人間は変わりうる存在だ。悪人も深く反省して更生することがあり、何かのきっかけで善人に変わることがある。「虐待した親」が十分に反省し更生したならば、親のもとに帰してやるべきだろう。

より重要なことは、虐待する親を減らすことである。愛情をもって子供を育てられるように、親たちに、あるいはこれから親になろうとする若い世代に、子供を産み育てるとはどういうことなのかを、夫婦の協力のあり方も含めて具体的に教えていくような機会をもっと増やすべきだ。

DVや虐待を減らしたフィンランドの「ネウボラ

フィンランドの「ネウボラ」は、女性が妊娠すると出産して子供が一定の年齢になるまで包括的にサポートする制度で、ほとんどの女性が利用すると聞いたことがある。ネウボラ支部は全国至る所にあり、フィンランドは国を挙げて推進している。

ネウボラのユニークなところは、妊娠した女性が一人で行くのではなく、必ず男性も一緒に行く。カップルでの利用が原則である。男性は出産・育児を女性任せにせず、女性が妊娠したときから当事者の一人として新しい命の誕生に向き合うことになる。ネウボラ側には熟練した指導者、教育者がおり、男性の関心を生まれてくる赤ちゃんに向けさせ、妊婦や赤ちゃんに対する接し方も指導するという。また妊娠期間中の悩み事に耳を傾けてくれ、赤ちゃんが生まれた後は育児の支援を行うという。

私が聞いた話では、この制度が軌道に載ってからDVや子供への虐待が減ったそうだ。男性の場合、父親になるという自覚や責任感が芽生え、それが暴力や虐待を抑止する力になる。

あくまで聞いた話であり、統計データなどを調べたわけではないが、こういう仕組みはとても良いと思う。

親になる男女の心の成長を促す制度が必要

DVや児童虐待は、法による処罰をいくら厳しくしても、それだけでなくせるようなものではない。暴力や虐待の根本にあるのは、人間の心の未熟さや悪意、悪いと分かっていても抑えられない衝動などである。法律では踏み込めない領域だ。

人は家庭教育や学校教育を通して、次第にそういったものを制御できるようになっていくが、おそらくネウボラのような制度は、それを補う役割を果たしているのだろう。単なる知識の提供ではなく、ネウボラのスタッフと若いカップルとの人格的な交流、それも妊娠当初から子供がある程度の年齢になるまで続く交流が、カップルの心の成長を促しているのだと思う。

一部の自治体では、日本版ネウボラも始まっていると聞く。成果が上がることを期待したい。

最後にもう一つ。新しくできる「こども家庭庁」を、特定の偏ったイデオロギーを子供たちに注入するような組織にしてはいけない。子育ての主体はあくまで親である。親の意向を無視して何でもできると勘違いすべきでない。